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「チルドレン譚」とでも名付けるべきか、必ず盛り上がる物語作法について

「24時間テレビ」の話題が、私のネット観測範囲では盛り上がっている。観測範囲と言っても現在は「はてな」と Twitter だけだが。「賛否両論」と言いたいところだが、ネットのことで dis コメが圧倒的に多い印象。だけど現実に巨額の寄付金を集めているわけだし、これだけ話題になったら勝ちだよね。

とは言うものの、うちのブログで「24時間テレビ」のことを書いたことは、まだ一度もなかったはず。Twitter で Tomy103103★ (@Tomy103103) さんの、このツイートにインスパイアされて、にわかに書きたいことが湧き上がった。ありがとうございます >id:Tomy103103 さん。

以下、今回は敬称略で失礼します。

今年の24時間テレビのドラマは「時代をつくった男 阿久悠物語」というのだった。ずっと観ていたわけではなく、たまたまテレビをつけた時は、亀梨和也演じる阿久悠が、新番組「スター誕生」の審査員として、辛口コメントを開陳しているところだった。ドラマ内のテレビのブラウン管には、司会者萩本欽一の放送当時の映像がはめ込まれていて「欽ちゃん若いわ~」と思ってしまった。

そして、放送後に阿久が番組スタッフや他の審査員と議論を交わすシーンに切り替わる。曰く、みんな技術的に決して下手ではないが、何か「これは」という光るものが見つからないと。そして続くシーンで「スター誕生」の視聴率が苦戦していることが伝えられる。

ここでピンと来た。これから「スター誕生」が生み出した往年のアイドルたちが、続々と登場するのだなと。

実は上記のシーンのあと、ドラマは阿久の家庭内における苦悩を描くシーンに切り替わり、私は何かの都合で(思い出せないがぜってー大したことじゃなかったと思う)テレビの前を離れてしまった。

あとで番組HPを確認すると、森昌子、桜田淳子、岩崎宏美、ピンクレディーといった名前が並んでいた。

www.ntv.co.jp

暴挙にも、これだけの材料でエントリーを書いてしまう。

これ、ぜってー盛り上がるパターンなのだ。今すぐに思い出せるのだと、最相葉月『星新一 一〇〇一話をつくった人』で、父親の創業した会社を継いだ星新一が地獄のような社長業からようやく解放された後、まず江戸川乱歩に認められて作家として世に出、次いで小松左京、筒井康隆、半村良ら、日本SF作家クラブの創設メンバーとなる仲間と次々と出会うシーンであるとか… 

星新一〈上〉―一〇〇一話をつくった人 (新潮文庫)

星新一〈上〉―一〇〇一話をつくった人 (新潮文庫)

 

 あるいは武良布枝『ゲゲゲの女房 (実業之日本社文庫)』で、水木しげるが原稿料を入稿後に半額に値切られる貸本屋作家稼業から足抜けし、「少年マガジン」伝説の名編集長内田勝に認められて別天地のような大手出版社講談社に移籍した後に、南伸坊、つげ義春、池上遼一、矢口高雄といったものすごい面々が、編集者として、あるいはアシスタントとして次々に現れるシーンであるとか… 

ゲゲゲの女房 (実業之日本社文庫)

ゲゲゲの女房 (実業之日本社文庫)

 

つまり、新しいキャラクターが登場するたびに「あ、こいつ〇〇だろ? 〇〇じゃねーのか?」と盛り上がれるってことだ。

こういうパターンというか物語作法って、何か名前がついてないのだろうか。物語の構造分析をやりながら創作をやっている人というと、「はてな」では 東雲長閑(id:shinonomen)さんが思い浮かぶけど、何かご存知じゃないかな、とムチャ振り。

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「復讐譚」とか「貴種流離譚」とか、物語のパターンには「なになに譚」と名づけることがあるので、仮に「チルドレン譚」とでも呼んでみよう。

やってみたいと思った、つか、誰かやっているのが思い浮かばなかったのが、「チルドレン」の一人を主人公とした物語である。

例えば漱石山房あるいは木曜会に集う若者たちってことで、主人公は後の百鬼園先生こと内田栄造がいいだろう。『三四郎』か『それから』の最終回を読み、居ても立ってもいられないほどに情熱をかき立てられた内田青年は、とにかくこの作者に会ってみようと、連載最終回の新聞紙を大事に懐にしまって、漱石宅を訪れる。そうすると、そこにはすでにむくつけき先客たちが山をなしていて、先輩後輩の上下関係が厳しかった当時のことで、初め「神主」こと小宮豊隆あたりに邪険に扱われる。しかし「こいつ只者じゃないな」てなわけで、ほどなく周りから認められ木曜会でも一目置かれる存在となるのだが、そこへ一足遅れて、蓬髪でカリカリに痩せた若者がやってくる。今度はそれを内田が出迎えて「名前は何という?」「芥川です。芥川龍之介と言います」

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実はこれも元ネタがあって、かつての西鉄ライオンズの黄金時代を築いた一人の豊田泰光が、自伝にこんなことを書いていたうろ覚えの記憶がある。高校を出たばかりの豊田が西鉄の宿舎にやって来ると、そこには中西太など「野武士」と呼ばれた強面の先輩たちがゴロゴロいて、どうなることかと思ったが一年目からレギュラーとして頭角を現す。そこへ三年ほど遅れて入団した高校出のピッチャーを、ぞんざいに扱ったら実はそいつが稲尾和久という名のとんでもない逸材だった、という話だ。ただし検索したりして調べているが、元ネタが思い出せない。確か江本孟紀の『プロ野球を10倍楽しく見る方法』のシリーズか他社から出た類似品の、気軽な読み物だったように思うが。

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西鉄ライオンズは、その後「黒い霧事件」があったりして、長い暗黒時代に突入する。それに似て、漱石没後、そして芥川の早すぎる死の後、かつての木曜会のメンバーは、ドロドロした派閥争い、学閥争いに巻き込まれる。そしてその背景となる世相も、言論弾圧や長びく戦争による暗い時代に突入してゆく。「チルドレン譚」というのはその掴みというかプロローグであって、本当に描くべきはそうした長く暗い苦難の時代であり、エピローグとして黒澤明監督の『まあだだよ』に描かれた晩年の小春日和のようなシーンと、若き日の回想を二重写しのように重ねられたらと思うのだが…

比較的近い時代のことなので資料、文献はいっぱいあるから、もしそういうものを書こうと思ったら、膨大な資料を読みこなさなければならないだろうなぁ…つか私には才能がないんだよ!(`;ω;´)

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チルドレンを主人公とした物語がぜんぜんないなんてことは当然ありえないわけで、すぐに思い出せるのは中島敦に『弟子』という名作がある。孔子の弟子の子路を主人公とした中編だ。ただし子路の目から見た孔子を描くのが主題のようで、子貢や顔回など他の弟子との出会いや切磋琢磨には、それほど印象に残るシーンはなかったように記憶する。青空文庫へのリンク貼っときます(今ざっと読み返したら、弟子同士の嫉妬や反目の描写もちゃんとあった。名作として残っている作品は、やはりどこか違う)。

http://www.aozora.gr.jp/cards/000119/files/1738_16623.html

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