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英語が読めるようになるには英語を読むしかないが『日本人の英語』シリーズは読む価値あると思う

前回のエントリーには予想外に多くのアクセス、はてなスター、ブックマークをいただき、驚きつつも感謝しています。ありがとうございました。

今回のブログタイトルに掲げた「英語が読めるようになるには英語を読むしかない」は、ご存知村上春樹氏の言葉で、これはまさに真理だと思います。しかし、英文法のいくつかのルールに関しては、英語だけを読んでそこから習得しようと思ったら大変なことになるのではないかと思わざるを得ないものがあります。むしろ先人の知見を日本語で教わった方が、近道になるのではないかと考えます。今回はそれを書いてみます。

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たとえばこんな感じだ。行方昭夫氏の『英文快読術 (岩波現代文庫)』から、過去完了形の「大過去」と呼ばれる用法に関する説明である。

これは英文を書く上の一種の約束事の一つで,初めに一回過去完了形を用いれば,そこから話が過去よりもっと前の大過去に及ぶという合図になり,その次の文からは過去形にすればよいのである.ところが,大過去の話が終り,再び過去の話に戻る合図は何もないのである.新しい節になることもあるが,とにかく,合図がないので,読者が内容から判断して,「ここでまた時間が下るのだな」と判断しなくてはならない.

(引用は「同時代ライブラリー」版P81より)

引用部の直前に例文としてジョージ・オーウェルの『象を撃つ』からの一説が引かれているが、省略した。行方氏は英文和訳のプロ中のプロなので、例文も名作・古典から厳選されており容赦がないのだ。

「大過去」は高校英語の英文法にも出てくる用語で、高校ではここまで詳しく教えてもらえないかも知れないが、精読を繰り返せばルールを自得することも(困難とはいえ)不可能ではあるまい。

   *       *       *

だが、悪名高き関係代名詞の「制限用法」と「非制限用法」となると、どうだろうか? これもうろ覚えで誰かが「こんなものを理解するのは、日本人には(非ネイティブには)不可能だ!」という趣旨の泣き言を書いていたと思う。全くの同感である。

『日本人の英語』シリーズでも、繰り返し論じられている。『英語の壁 文春新書 326』(以下、『壁』と略記)P120から、例文を引用する。

I visit my older sister, who lives in Chicago.(コンマあり)

「私には一人の姉があり、シカゴに住んでいる。私はその姉を訪ねた」・・・関係代名詞の非制限用法

I visit my older sister who lives in Chicago.(コンマなし)

「私には複数の姉があり、そのうち一人がシカゴに住んでいる。私はその姉を訪ねた」・・・関係代名詞の制限用法

『壁』から引用したのは、例文が比較的容易だったからだ。ただし『壁』では、制限用法の関係代名詞が日本の教科書に登場するのは中学校から、非制限用法が登場するのは高校からなので、二つの用法が一緒に対照的に紹介されないことが、日本人の両者の用法の違いについて理解を妨げているのではないか、という文脈で言及されている。

一緒に紹介されたって、わかるかーっ!ヽ(`Д´#)ノ 

自慢じゃないが私は、これらの英文を読んでも、コンマありとなしの、どちらが姉が複数でどちらが一人かも、どちらが制限用法でどちらが非制限用法かも、判断つかないぞ。

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ところが、マーク・ピーターセン氏によると「作文に慣れていないアメリカ人はよく間違える」としながらも、ネイティブには両者が明確に区別可能らしい。なんでわかるんだ??

制限用法と非制限用法に関して、説明に最もページを割いているのは、無印の『日本人の英語 (岩波新書)』(例によって、以後『無印』)である。P118~123の6ページが割かれている。

その説明を要約すると、次のようなことだと思う。著者は「コンマをカッコだと考えたらよい」(『無印』P120)というのである。

英文を書くとき,もし関係節をカッコに入れてもよいような内容であるなら,コンマをつけなければならない.もし関係節をカッコに入れたらおかしいような意味であるなら,絶対にコンマを付けてはいけないのである. 

 (『無印』P121)

さきの例文でいうなら、姉が一人しかいなければ、シカゴに住んでいるというのは付加的な情報であり、カッコに入れても問題はない。しかし姉が複数いれば、シカゴに住んでいるというのは姉のうちの一人を特定するのに必要な情報であり、カッコに入れてはいけないのである。

だったら「制限用法」「非制限用法」というより「特定用法」「非特定用法」とでもいうような用語にしてもらったほうが、わかりやすかったのに。

さきの例文を、自己流で書き直してみよう。

I visit my older sister(who lives in Chicago).(カッコあり)

「私には一人の姉があ(り、シカゴに住んでい)る。私はその姉を訪ねた」・・・関係代名詞の非制限用法=「非特定用法」=姉の特定に必要な情報を追加しているわけではない=姉は一人

I visit my older sister who lives in Chicago.(カッコなし)

「私には複数の姉があり、そのうち一人がシカゴに住んでいる。私はその姉を訪ねた」・・・関係代名詞の制限用法=「特定用法」=姉の特定にシカゴに住んでいるという情報が必要=姉は一人ではない

ちっとはわかりやすくなりましたでしょうか? 念のため繰り返すけど「非特定用法」「特定用法」というのは今思いついた言葉でそんな用語はないよ。

さらに言えば『無印』では、最初に提示された例文が、あまりわかりやすくなかったと感じるのは私だけ?

制限的用法(コンマなし):

The astronomer chose to look at the planets which are relatively near the Earth.(天文学者は(太陽系のうちで)比較的地球に近い方の惑星を観ることにした.)

非制限的用法(コンマあり):

The astronomer chose to look at the planets, which are relatively near the Earth.(天文学者は(太陽系でない天体に比べたら)比較的地球に近い方の惑星を観ることにした.)

  (『無印』P119)

 前述の説明が、これらの例文の「(太陽系のうちで)比較的地球に近い方の惑星」と「(太陽系でない天体に比べたら)比較的地球に近い方の惑星」の区別に、スムーズにつながりますでしょうか?

この記事で『無印』ではなく『壁』の例文を先に示したのは、最初に示す例文は、できるだけやさしいものにした方がいいのではないかと愚考したからである。

『無印』の当該説明部には、さらに10に近い例文が示されている。その中には、もう少しわかりやすいと感じられたものもあったことを付け加えておく。

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ときに私の場合、『実践 日本人の英語 (岩波新書)』(『実践』と略記)で、次のような説明を読んだとき、ようやく腑に落ちたと感じた。

 関係代名詞と「同格」表現

 補足しておけば,

Kyoto, which was the capital of Japan during the Heian period, is a wonderful city.(平安時代に日本の首都だった京都は.素晴らしい都市である)

のように,関係詞節がコンマに挟まれる「非制限用法」があるが,この文のように動詞がbe動詞の場合には

Kyoto, the capital of Japan during the Heian period, is a wonderful city.

のように,関係代名詞を使わず.同格の形で表現した方がすっきりするケースが実に多い.

( 『実践』P205)

という説明に続いて、『壁』から引いたのとほぼ同じ形式の次のような例文を読んだとき、これでようやく迷わないでも済むようになったかなと、少し自信がついたように感じた。

(コンマなし)

Her younger brother Andrew is a professional mahjong player.

「彼女の(何人かいる弟の一人である)弟のアンドリューはプロ雀士である」・・・制限用法

(コンマあり)

 Her younger brother, Andrew, is a professional mahjong player.

「彼女の(一人しかいない)弟のアンドリューはプロ雀士である」・・・非制限用法

すなわち前者のコンマなし制限用法では、「Andrew」は「younger brother」の一人を特定する情報=「Andrew」と「younger brother」は「同格」ではない。

一方、後者のコンマあり非制限用法では、「Andrew」と「younger brother」は「同格」=「Andrew」は「younger brother」を特定する情報ではない=「younger brother」は一人であることが含意される。

前回のエントリーの最後に、『日本人の英語』シリーズではいくつかのテーマがシリーズを通してフーガのように繰り返され、表現はあとになるほどわかりやすくなっているように思われると書いたのは、その一例として今回書いたことが念頭にあったからである。

説明の難易度にはさほど差はなく、形を変え繰り返し学習したからようやく身についた、ということかも知れない。

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とは言え『無印』からもう一か所引用。これも誰かから教えてもらわなければ、多読により自得するのは不可能に近い困難だと思う。

 文脈によって,センテンスを簡潔にするために関係節から関係代名詞自体を省略する場合もある.そうすると,淀みなく流れる,非常に読みやすい文章になるケースもよくあるので,文脈の許すかぎり,薦めたいと思う.ただし,これは制限用法の場合だけである.非制限用法の関係代名詞はふつう省略されない.たとえば,

The article which I read yesterday was quite instructive.(私が昨日読んだ論文はかなり勉強になった)

という文章を,

The article I read yesterday was quite instructive.

にしても差し支えないが,

The article, which I read yesterday, was quite instructive.

の “which” は省略できない. 

 (『無印』P126)

わかるかーっ!ヽ(`Д´#)ノ

今回は『無印』の書影を貼ってみよう。

日本人の英語 (岩波新書)

日本人の英語 (岩波新書)